自動車業界のCADについて 抑えておきたい3つの知識

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製造業での製品開発においては自動車産業が牽引役となり、「3D CAD」 によって設計を行うことが常識となりつつあります。この記事では「自動車業界のCAD」について、CADオペレーターの方、これからCADを使って働いてみたい方向けに、業界におけるCADの役割や使われているソフトなど、3つのポイントに分けて解説を行います。

1.自動車業界におけるCADの役割

自動車業界でCADが担う役割は、大きく以下の3点に分けられます。

(1)設計

一般にイメージしやすく、実際にCADが活躍する機会が多いのが「設計」の場面です。現在、自動車業界では、製品の設計に「ハイエンドCAD」と呼ばれる3D CADが使用されています。ハイエンドCADを用いることによって、設計者は設計の早期段階で部品の干渉(接触・不整合)などの各種問題を把握することができ、修正等も迅速に行うことができます。

(2)解析(シミュレーション)

自動車業界でCADを使用する主な目的の1つが、解析(シミュレーション)です。自動車の開発・生産現場では、短い間に多種多様な製品を高品質、かつ低コストで市場に投入することが常に要求されます。そこで、実際に試作品をつくるのではなく、CADデータを用いた「デジタルモックアップ(DMU)」を利用することで、製品の外見、内部構成などを比較検討しています。デジタルモックアップとは、デザイナーが個々に設計した部品や図面を同じデータベースに入れることができるソフトウェアのことです。その開発車両に部品が適合するかどうかを即座に照合することができるため、製作期間の短縮と正確な作業が可能になります。さらにデジタルモックアップ製作ソフトウェアの機能で製品モデル、人体モデルの挙動をシミュレートし確認することで、さらなる製作期間の短縮化とコスト削減を実現しています。

(3)コミュニケーション

CADデータはやりとりが容易なため、多人数とコミュニケーションを取りながら作業を行う際にも、大きな効果を発揮します。自動車業界の製品開発では、設計技術者が他部署との連携を取ることが必須です。自社内以外にも、部品メーカーの営業担当者や自動車メーカーの設計・購買担当者、自社で保有していない技術を持つ他社の技術者など、多くの人々連携してものづくりを行います。CADデータを通じたコミュニケーションは、こうした関係者と連絡を取り合う際に、製品情報をエンジニア間で簡単かつ正確に伝えることを可能にしています。

2.自動車業界で使われるCADソフト

自動車業界では、「ハイエンドCAD」と呼ばれる高価格・高機能のCADソフトが使用されています。ハイエンドCADは多くのモジュールに対応しており、複雑な局面に強いという特徴があります。ソフトは100万円以上の高価格となっているため、個人ではなく企業が購入するのが一般的です。ハイエンドCADの代表的なソフトには「CATIA V5」「Creo Parametric」「NX」などがあります。ここからは、各自動車会社が使用しているCADソフトについてご紹介します。

CATIA(ダッソー・システムズ社)

CATIAは、フランスに本社を置くダッソー・システムズ社が開発するハイエンドCADです。複雑な曲面形状の設定・変更が可能で、部品点数が多いアセンブリ(組立品)を取り扱うことができるため、航空機、自動車、造船、産業機械などさまざまな製品の設計業務に利用されています。V5からはWindowsに準拠した操作画面となっており、直感的な操作が可能です。

Creo Parametric(PTC社)

Creo Parametric(旧:Pro/ENGINEER)は、アメリカに本社を置くパラメトリック・テクノロジー・コーポレーション社(PTC社)が開発する3D CADシステムです。自由曲面形状を容易に曲げ伸ばしすることが可能で、直感的で簡単に作成・編集できるという特徴があります。別のCADソフトウェア(SOLIDWORKS、NX、CATIA V5)のデータを中間フォーマットなしで直接オープンできるという特徴があります。

NX(シーメンスPLMソフトウェア社)

NXは、アメリカに本社を置くシーメンスPLMソフトウェア社が開発する3D CADソフトです。2007年に、NXの開発元だったUGS社(元Unigraphics Solutions社)をシーメンスPLMソフトウェアが買収したという経緯があるため、以前は「NX Unigraphics」「UG」といった呼称で呼ばれていました。ハイエンドソフトとしても特に人気の高かった「Unigraphics」「I-deas」の両ソフトを統合し、その強みを継承したことにより、複雑な形状モデリングに用いる曲面の作成を得意としています。

トヨタ自動車はボディには「CATIA」ユニット系には「Creo Parametric」

トヨタ自動車は、ボディ系には「CATIA V5」を、エンジンなどのユニット系には「 Creo Parametric(旧Pro/ENGINEER)」を採用しています。
さらに、設計、解析、生産技術、製造といったそれぞれのエンジニアリング領域などには、適材適所で各種ツールを導入しています。

トヨタ自動車には「自前主義」と呼ばれる自社の資源・技術だけを用いて製品をつくろうとする考え方があり、以前は自社で開発した国産3D CAD「統合CAD」を使用していました。しかし、グローバルな競争に勝ち抜いていくために自前主義を捨て、2002年に「CATIA」と「Creo Parametric」を導入しました。

トヨタをはじめ、自動車業界では場面に応じて複数のCADソフトを使用する傾向があります。そのため、「このソフトだけを使えれば大丈夫」ということはなく、複数のソフトを使用するスキルが必要になっていきます。

自動車業界で使える、CADスキルを身に付ける方法

これまでご紹介してきたように、自動車業界の製品開発現場では3D CADで設計を行うことが常識となりつつあります。自動車業界で働くためには、設計に関わる知識と合わせて、3D CADのスキルを身に付けなければなりません。
それでは、3D CADのスキルを身に付けるには、どのような手段があるのでしょうか。

3D CADのスキルを身に付けるには

3D CADのスキルを身に付けるための手段は、大きく分けて2つです。

1.独学で勉強する

3D CADを学ぶ手段として、一番経済的な方法は「独学」です。3D CADソフトの中には、無料で体験版をダウンロードできるものがあります。体験版付属のチュートリアルで基本操作を学びつつ、不明な点があった場合はネットや書籍で情報を得ていく、というやり方が3D CADを独学で学ぶ際の基本的な勉強法になります。

Autodesk社製の3D CADソフト「Autodesk Fusion 360」は、学生であれば3年間、趣味での利用者や100,000ドル(約1,200万円)以下のビジネス(スタートアップ)であれば1年間無償版を使用できるため、3D CADの練習に使われやすいソフトとなっています。

企業によって使用される3D CADソフトはさまざまですが、3Dの場合決まった操作の組み合わせでモデルをつくっていくため、基本的な作図方法さえマスターしておけば、ほかのソフトを使用する際にも応用が利きます。

ネットで情報を調べる際には、3D CADオペレーターが集まるコミュニティサイトも活用しましょう。自分の疑問や困っている点が検索で解決しない場合は、コミュニティサイトで質問することで答えが見つかることもあります。

2.講習で勉強する

3D CADを1から独学で勉強するには、相当な根気と時間を必要とします。独学が難しいと感じた場合は、講習を受けてみましょう。最近では、家庭用3Dプリンターの普及により、一般向けのセミナーも少しずつ増えはじめています。
前述の通り、自動車業界では高額なハイエンドCADが使用されることもあり、業務用のハイエンドCADの講座は、10万円以上のものがほとんどとなっていますが、1日~1カ月の短期間講座であれば、3万円前後の低予算のものや、無料のものもあります。短期間で3D CADのスキルを習得するためには、こうした講習やセミナー等を活用するのがおすすめです。

セミナー・講座の講師はCADに対して幅広い知識を持っているため、はじめは独学で勉強をスタートし、分からない部分については講師に尋ねてみるという学習方法も効果的です。CADの学習にかけられる時間・費用を考えながら、自分に合った勉強法を選びましょう。

CADを使って自動車業界で働く際に役立つ資格は?

自動車業界では、特定のCAD資格が就職するために必須になることはありませんが、3D CADに関する資格を持っていることは、就職活動において有効なアピール材料になります。特に、CADを独学で勉強する方にとっては「資格の取得」はわかりやすい目標になります。ぜひチャレンジしてみると良いでしょう。

3D CADに限定した場合、国内で有名なCAD資格は「CADトレース技能審査」「3次元CAD利用者技術試験」の2つです。この2つのうち「CADトレース技能審査」は、厚生労働省が認定している国内で唯一の公的なCAD資格でしたが、平成29年をもって、廃止されることが決定しました。そこでここでは、民間資格である「3次元CAD利用者技術試験」について解説していきます。

3次元CAD利用者技術試験

「3次元CAD利用者技術試験」は、一般社団法人コンピュータ教育振興協会が主催する、3D CADの民間資格です。対象は、3D CADを利用したモデリング・設計・製図などの業務に従事するオペレーターや、関連製品の管理、営業担当者となっています。
資格には1級、準1級、2級の3種類があり、2級は筆記試験のみですが、準1級、1級には実技試験があります。1級・準1級の実技試験では、第三者との口頭でのやり取りをイメージして図面製作を行う課題が出題されるため、実務経験がない受験者には難関の試験となっています。詳しい応募要項などは、3次元CAD利用技術者試験の公式WEBページでご確認ください。

CADを使って自動車業界で働くのに向いている人は?

CADを使って自動車業界で働くには、これまでご紹介した技術的な面に加え、性格的な適正も見られることになります。実際に仕事に就くと、自動車やその部品と毎日向きあって作業していくことになるため、自動車や機械が好きであることは、働くうえでもプラスに作用するでしょう。自動車業界だけでなく、建築や航空機業界などすべての3D CADを利用する仕事にいえることですが、空間認識能力が優れている人、ミスのない正確な仕事ができる人も、この仕事に向いているといえます。

これから空間認識能力を高めたいと考えている方には、CADを使わず、身の周りにあるものを立体的にスケッチしてみることをおすすめします。3次元的にものを見る癖をつけることは、3D CADを使用して設計を行う際に役立ちます。

今後も成長する自動車業界、需要が増す3D CAD

自動車は、今後も成長が期待できるグローバル産業といえます。IoT(モノのインターネット)、自動運転など、新たな技術登場で急速な変化が迫られていることは確かですが、2次元から3次元へと移行する設計技術の潮流から判断すれば、3D CADは1つの到達点であり、今後も製品開発の基本技術であり続ける可能性は高いでしょう。ものづくりに興味がある方は、ぜひCADを使って自動車業界で働くことを目指してみてはいかがでしょうか。