派遣の契約書がないのはあり? 保存期間や遅い場合の対処も

派遣は、CADオペレーターや事務スタッフ、販売スタッフなどの職種に多い雇用形態。正社員に比べて残業が少ない傾向にあり、ワークライフバランスを大切にしやすい働き方です。

しかし、まれにですが「正社員として働いていた職場では雇用契約書があったのに、派遣になったら契約書がない」という声も聞こえます。それは違法ではないのか、後々不利になるようなことはないのか、不安になる方も多いでしょう。

今回は、派遣で働く際、契約書がなかったときの対処法について解説していきます。

1.派遣の契約書がないのはあり?

まずは、派遣の契約書の必要性やない場合の違法性について説明していきます。

契約書は基本的に必要

派遣社員であっても基本的に契約書は必要です。ない場合は企業に問い合わせるべきでしょう。派遣社員は、雇用契約を結んだ派遣会社(派遣元)の指示で派遣先の企業へ出向き、その企業の指示に従って働きます。そのため、派遣社員として働く場合は事前に派遣会社と雇用契約を結び、労働条件に関する契約書を交わす必要があります。

派遣の契約書は2種類交わす

派遣社員と派遣会社が雇用契約を結ぶ際には、「労働条件通知書」と「就業条件明示書」の2枚の契約書を結ぶ必要があります。

労働条件通知書は契約期間や賃金など労働基準法に基づいた労働条件を通知するための契約書です。企業が従業員を雇用するためには必ず労働条件通知書を交付しなければなりません。

一方、就業条件明示書とは実績業務内容や従事する事業所の名前、所在地、派遣期間など派遣法に基づいた事項を通知するための契約書です。1週間以上の派遣契約を結ぶ場合、派遣会社は就労条件明示書を発行する義務があります。

労働条件明示書のモデルはコチラ→厚生労働省「労働条件通知書」
就業条件明示書のモデルはコチラ→厚生労働省「モデル就業条件明示書」

派遣社員として働く際には、これら2枚の契約書が必要です。ただ、内容が共通する部分も多いため、2枚の内容を1枚にまとめて「労働条件通知書兼就業条件明示書」とする場合もあります。

契約書がないだけでは違法とはいえない

契約書は基本的には必要なものですが、なくてもそれだけで違法だとは言い切れません。派遣会社との雇用契約そのものは、口頭のみで締結された場合でも有効だからです。ただし、労働基準法第15条で規定されている採用時に明示しなければならない労働条件のうち、以下の5つについては書面で明示しなければならないと定められています。そのため、契約書や労働通知書などが交わされていなければ違法となる可能性も高いです。

(1)労働契約の期間に関する事項
(2)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(4)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

参考:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」

また、労働条件などについて書面で取り交わしておくと、後々賃金が事前に聞いていたよりも少ない、把握していた労働時間外も働かされるといったトラブルが起こった場合に証拠として役立ちます。もし、派遣会社が労働条件に関して書面での通知をせず、書面での通知を希望しても応じてもらえない場合は、その企業が本当に健全な派遣会社か立ち止まって考えた方が良いでしょう。

契約書に含まれるべき内容

派遣として働く場合の契約書に含まれるべき内容は以下の通りです。契約書を取り交わす際は、これらの項目が入っているかチェックしましょう。

労働契約の期間

労働契約期間の定めがある場合、ない場合があります。ある場合は、契約更新の有無や条件も明記されています。

就業場所

派遣先の所在地や名称、部署名などです。

業務内容

具体的な業務内容です。派遣社員の場合、原則としてこの箇所に記載されている業務のみを行います。「事務作業全般」などの大まかな内容だと、実際に働き出したときに思った以上に業務の範囲が広かったという事態も起こり得るため、なるべく詳しく書いてもらうのが望ましいでしょう。

就業時間・休憩時間

始業時間や就業時間、休憩時間などの具体的な時間が明記されています。

時間外労働や就業時転換(シフト制)の有無

残業などの時間外労働、シフト制かどうかなどです。

休日・休暇

休日の日数、年次休暇や有給休暇の取得条件などです。

賃金の決定・計算・支払方法

給料に関する内容です。時給や支払日、控除項目などはこちらを確認します。

退職

退職を希望する場合に申し出るまでの期日や手続きなどです。

派遣元・派遣先の責任者

派遣元・派遣先の責任者についてです。

指揮命令を行う人

派遣先で業務に関する指揮命令を行う人(上司)は誰なのか明記されています。

仕事に関する苦情がある場合

派遣社員が仕事に対して不満や不平を感じた場合、誰に訴えればいいのかについてです。指揮命令を行う人(上司)以外が該当します。

契約書の保存期間には定めはない

労働者派遣法では、契約書の保存期間についての定めは特にありません。ただ、派遣契約期間中や派遣契約期間満了後に何らかのトラブルが起こった場合を考えて、契約終了後も3年程度は保存しておくのが良いでしょう。

2.派遣の契約書にまつわるQ&A

派遣で働く際のよくある疑問についてお答えします。

契約書の送付が遅れています。違法ではないですか?

労働基準法や労働者派遣法では、企業(派遣会社)は労働者(派遣社員)に対して事前に労働条件を明示することが定められていますが、具体的にいつまでという決まりはありません。そのため、派遣会社が契約書を送るといったのにもかかわらず送られてこないという場合でも、違法とはいえません。ただし、しっかりと体制が整っている派遣会社であれば、そのようなことはないため、あまりにも契約書の送付が遅い場合はほかの派遣会社への切り替えなどを検討してもいいでしょう。

契約書にない仕事を命じられました。これってありですか?

派遣先から契約書に記載されている業務以外を命じられた場合、応じる必要はありません。そもそも派遣先は、契約書の業務内容に反した指示を出すことはできないという決まりがあります。契約書にない仕事を頼まれることが多い場合は、派遣会社の責任者に相談しましょう。

まだ契約書に捺印していないのにケガをしてしまいました。労災はおりますか?

派遣社員として働くための労働契約は口頭でも有効であり、すでに勤務しているのであれば、契約書に捺印していなくても労災の対象です。派遣会社の担当者に今後の対応について確認しましょう。

3.きちんと雇用条件を押さえよう

派遣社員として働く場合は、事前に派遣会社と労働契約を結び、雇用条件を書面にしてもらうことが大切です。正社員として働く場合とは内容が違うので、しっかりと確認しておきましょう。